count down news paper>明るみの中で(1996)
明るみの中で

便宜的に放水された雨の中にさえ虹は生まれて手を取り合って歩いている
さらさらと砂粒が舗道を転げ賑やかな午後が向こうに見えることを耳打ちするが
どのような物言いもあなたを造形するには凡庸すぎる気がして言い出せない
黒炭の色をした衣服はこれ以上の言葉を刻みつけても変わらないことでもあるし
私の言葉はあなたの手に握られた私の手で書かれているようにぎこちない
与えられた時間だけはそれぞれの役目を全うしようと自分を落ち着けて

私たちが歩むときに硝子は遠くにあって凝視する、私たちは美しい献体だ
詳細に理解された世界のフォルムを反復してみせる装置としての歩行と会話、表情
樹々の枝葉のざわめきの投射だけが抑制されない、午後の調和に贈呈されるざわめき
鈍い光の目映さと銀板の勾配、そして検討された地点での打ち合わせ済みの揃った停止
私たちを定点に硝子が移動をはじめる、円周上の弧の描いた軌道で領域が定められる
二つの用をなさない長針と短針は寧ろ日時計となっていることは表層の飾りつけだが

思い浮かぶことと口にして進める事態はお互いに憎悪したように逸れていく
それに耐えられない苦痛を装った無言と次の場面への転換を待って計る加減
誰かの声が横たわる静けさに終わりを告げるのは決まったことなのに気持ちが痛み
このまま作られた明るみの中に焼きつけられる断片としてではなくそれとは別個に
ここから歩み出していくことを希望して止まない確かなものに孕まれて言い出すことは
なお緩やかにこの場所にあり続けることだ、あなたはそうでないだろうが

鎮痛剤のもたらした眠気が舌の根の潤いを剥奪していく、意識を白い浴槽に横たえて
青みがかった水に映したペンキ塗りの窓枠は揺らいで、それを両手で護ろう
反転した鏡像と静かな興奮と微弱な震えが身を寄せ合っている午後はまだ続くから
この長い場面の継続が完成したその時からどこにも書き添えられていない台詞を
まるで全く違った映画の一場面に似せて気の利いた引用を装って、誰もいない店の前で
テーブルに肘を無造作に置くだけの余裕とやはり引用としての仕草で固め

きっとそれだけの場面のために失われた綺麗な午後のあることを私たちは知らない
金銭の流出に左右される言葉の味気無さと使い減りした考えがお互いに罵倒し
それでも形をなすときには笑みによって強調されることに慣らされたことが幅を利かし
何もない幸福を虐げていくことにどれだけの人々が嬉々として踊らされたことか
今では揺り椅子さえも削られていく、勿論、様々な言葉は検閲に晒されて
綺麗な言葉だけで世界は語られていくだろう、そして世界は凡庸なものに貶められる
道を一つに狭められていくのだ、私とあなたのこの場面のように


(1996年製作)


 
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